大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9361号 判決 1980年8月29日

原告

木下晴司

被告

公和自動車交通株式会社

主文

一  被告は原告に対し、金五二九万四八三六円および内金四八九万四八三六円に対する昭和四九年二月三日から、内金四〇万円に対する昭和五一年一一月九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告

1  被告は原告に対し、金一一八七万二八八六円およびこれに対する昭和四九年二月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに1項につき仮執行の宣言を求める。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和四四年ごろから訴外さがみ交通ムサシノ株式会社にタクシー運転手として勤務していたが、昭和四九年二月三日午前五時三〇分ごろ、東京都杉並区上荻四丁目三〇番一〇号先交差点手前で、その運転にかかる営業用普通乗用自動車(以下、被害車という。)を信号待ちのため停車させていたところ、被告の従業員である訴外河手孝一運転にかかる被告所有の営業用普通乗用自動車(以下、加害車という。)に追突された。

2  原告は、右追突事故により頸部鞭打ち症(外傷性頸部症候群)の傷害を受けたほか、手および足に打撲傷を負い、同年二月三日から同年八月三一日まで(実治療日数一六九日)の間、日曜、祝日を除き、毎日、右事故現場付近の駒崎医院へ通院して治療を受け、さらに、同年九月一一日から昭和五一年六月三〇日までの間、日曜、祝日を除き、毎日、同年七月一日から昭和五五年六月一一日まで(以上の各実治療日数計一〇二四日)一週間に一回、埼玉県所沢市日吉町一八の二八の新井病院へ通院して治療を受け、また、昭和五一年一二月から昭和五三年一〇月まで(実治療日数三九日)関東労災病院に通院して治療を受けているが、治癒せず、現在も治療を継続しているものである。

そして、原告には、本件事故による受傷のため、現在においても、(1)心臓の鼓動のたびに頭頂部に疼痛を感じる、(2)視力が衰え、新聞も読めず、字も書けなくなつた、(3)手、足が硬直して冷くなり、動かなくなる、(4)少し重い物を持つと、すぐ肩が痛み、これを持ち続けることができない、(5)手足の硬直のため、朝起きるとき寝床からすぐ起き上がれない、(6)体温が低下している、などの症状がある。

3  被告は、加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、原告が本件事故によつて被つた後記損害につき、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条所定の責任がある。

4  原告が本件事故によつて被つた損害は次のとおりである。

(一) 診断書・証明書を入手するための手数料 金一万八九〇〇円

原告は、本件事故により前記のとおり受傷したが、その診断書・証明書を入手するための手数料として計金一万八九〇〇円(駒崎病院分金一五〇〇円、新井病院分金一万六九〇〇円、関東労災病院分金五〇〇円)を要した。

(二) 通院交通費計金一八万三一八〇円

原告は、本件受傷による治療のため、前記のとおり通院したが、その交通費として、駒崎病院分金二万三六六〇円(一日当りの交通費金一四〇円、実治療日数一六九日として計算)、新井病院分金一四万三三六〇円(一日当りの交通費金一四〇円、実治療日数一〇二四日として計算)、関東労災病院分金一万六一六〇円(一日当りの交通費金四四〇円、実治療日数三九日として計算)合計金一八万三一八〇円を要した。

(三) 逸失利益金二六九万二七五六円

原告の本件事故前一年間の平均賃金は日額金四、四六六円であつたが、原告は、本件事故による受傷のため就労不能の状態になつた。しかし、原告は、昭和四九年二月三日から同年九月一〇日までは自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険という。)から休業補償として金九七万五三二〇円を受領して全額の補償を受けたが、同月一一日から昭和五五年四月三〇日まで、別紙記載のとおり、労働者災害補償保険(以下、労災保険という。)から休業補償を受けた。ところで、その休業補償額は、昭和四九年九月一一日から同年一一月一六日までは平均賃金日額の六割相当額、同月一七日から昭和五五年四月三〇日までは平均賃金日額の八割相当額であるので、その差額、すなわち、昭和四九年九月一一日から同年一一月一六日までは平均賃金日額の四割相当額が、同月一七日から昭和五五年四月三〇日までは平均賃金日額の二割相当額が原告の逸失利益となる。そうすると、その額は計金二六九万二七五六円となる。

(四) 土地売却に対する課税による損害 金五五七万八〇五〇円

原告は、本件事故による前記受傷のため就労することができず全く無収入の状態となり、原告および家族の生計を維持することができなくなり、後記土地を売却して収入を得ること以外には採るべき手段がなくなつたため、やむなく、昭和五〇年九月一一日、所有していた東大和市高木字用水北一一九二番地一所在の宅地一五四・三八平方メートルを代金一四〇〇万円で他に売却したところ、これに対する所得税金四二六万一〇〇〇円、住民税金一三一万七〇五〇円合計金五五七万八〇五〇円を課税された。もし、本件受傷による就労不能ということがなければ、原告としては、右土地を売却することはあり得ず、右土地を継続して所有していることができた筈であり、したがつて、右土地売却による課税を受けることもなかつた筈である。よつて、右租税債務金五五七万八〇五〇円は、本件事故により原告が被つた損害というべきである。

(五) 慰藉料金二六〇万円

原告は、本件事故による受傷のため、前記各病院に通院して治療を受けたが、右通院期間(実治療日数計一二三二日)の原告の精神的苦痛を慰藉するためには金二六〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用金八〇万円

原告は、本件提起を原告代理人に依頼し、同代理人に対し、着手金として金一七万円を支払い、報酬として請求認容額の一割相当額を支払うことを約したので、被告に対し、弁護士費用として金八〇万円を請求する。

5  よつて、原告は、被告に対し、右損害額合計金一一八七万二八八六円およびこれに対する本件事故日である昭和四九年二月三日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の答弁

請求原因1の事実は認める。同2の事実中、原告がその主張のとおり通院したことは認めるが、その余の事実は知らない。同3の事実中、被告が加害車を所有し、これを自己のための運行の用に供していたことは認める。同4の事実中、原告が労災保険から金一〇四七万一八一六円を受領したことは認めるが、その余の事実は知らない。原告は、本件事故直後の初診時から本日に至るまで、ほぼ同様の症状により治療を継続しているものであり、被告の主張するような病状がみられるにせよ、それは昭和五二年末ごろには固定していたものと思われる。また、原告は、所有していた土地を本件事故のため売却せざるを得なくなり売却したところ、合計金五五七万八〇五〇円の課税を受けたと主張するが、労災保険からの給付もあり、また、借入れや妻の収入によつても生活し、治療を受けることもできたのであるから、右損害は本件事故と相当な因果関係はない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  被告の責任原因

請求原因1の事実および被告が加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二、第三、第五ないし第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇、第二一、第二四、第二五号証、乙第一号証の一ないし三、証人木下通子の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により頸部鞭打ち症(外傷性頸部症候群)の傷害を受けたほか、手足に打撲傷を受け、後頭部、頸部、肩部、前胸部等に痛みを感じたので、昭和四九年二月三日から同年八月三一日まで同都杉並区上荻所在の駒崎医院に通院(実治療日数一六九日)し、同年九月一一日から昭和五一年六月三日まで、同年七月一日から昭和五五年六月一一日まで埼玉県所沢市所在の新井病院に各通院(実治療日数計一〇二四日)し、また、この間、昭和五一年一二月から昭和五三年一〇月まで神奈川県川崎市所在の関東労災病院に通院(実治療日数三九日)し(ただし、請求原因2の事実中、原告がその主張のとおり通院したことは当事者間に争いがない。)、右各病院で、機械牽引療法、温熱療法、低周波療法等を受けたり、鎮痛剤、循環障害改善剤、ビタミン剤等の投与を受けたりなどして治療を続けていたこと、しかしながら、原告には、今なお、本件事故のため、右後頭部、頸部、肩部、両腕(ことに右腕)部、膝部、足部(ことに爪先)等に痛みがあり、これらの痛みが強いときは、視力が衰え、新聞を読んだり、字を書いたりすることができなくなり、また、手足が硬直して冷たくなつてしまう等の症状があるので、原告は現在も治療を継続していたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。

右事実に照らすと、被告は、本件事故によつて生じた原告の後記損害につき自賠法三条本文所定の責任を負担すべきである。

二  原告の損害

前掲各証拠と成立に争いのない甲第四号証の一ないし四〇、第一四ないし第二〇号証、第二三号証の一ないし六、第二六号証ならびに弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故により左記損害を被つたことが認められ、これを左右するに足る証拠は存在しない。

1  診断書・証明書を入手するための手数料計金一万八九〇〇円

原告は、本件受傷に関する診断書・証明書を入手するための手数料として、駒崎病院に金一、五〇〇円、新井病院に金一万六九〇〇円、関東労災病院に金五〇〇円計金一万八九〇〇円を支出せざるを得なかつた。

2  通院交通費計 金一八万三一八〇円

原告は、前記各病院に通院したが、その交通費として、駒崎病院分金二万三六六〇円(一日当りの交通費金一四〇円、実治療日数一六九日として計算)、新井病院分金一四万三三六〇円(一日当りの交通費金一四〇円、実治療日数一〇二四日として計算)、関東労災病院分金一万六一六〇円(一日当りの交通費金四四〇円、実治療日数三九日として計算すると計金一万七一六〇円となるが、原告は、その内金一万六一六〇円のみを請求しているので、右金員の限度で認定した。)合計金一八万三一八〇円を必要とせざるを得なかつた。

3  逸失利益 金二六九万二七五六円

原告は、本件事故当時、満四〇歳の健康な男性であつて、訴外さがみ交通ムサシノ株式会社にタクシー運転手として勤務し、同会社より日額平均金四四六六円の賃金を支給されていたが、本件事故により受傷し、前記のような症状があつたため、右事故日である昭和四九年二月三日から昭和五五年四月三〇日までの間全く就労することができない状態になり、同会社よりこの間の賃金の支給を受けることができなかつた。しかしながら、原告は、自賠責保険より、昭和四九年二月三日から同年九月一〇日までの休業補償として金九七万五三二〇円(平均賃金日額の一〇割相当額)を受領したほか、別紙記載のとおり、労災保険より、同月一一日から同年一一月一六日までの休業補償として金一七万九五六〇円(平均賃金日額の六割相当額)を、同月一七日から昭和五五年四月三〇日までの休業補償として金一〇二九万二二五六円(平均賃金日額の八割相当額)計金一〇四七万一八一六円(ただし、原告が労災保険から金一〇四七万一八一六円を受領したことは当事者間に争いがない。)を受領した。したがつて、原告の逸失利益は、別紙記載のとおり、昭和四九年九月一一日から同年一一月一六日までは平均賃金日額の四割相当額の金一一万九七〇六円、同月一七日から昭和五五年四月三〇日まではその二割相当額の金二五七万三〇五〇円計金二六九万二七五六円となる。

4  土地売却に対する課税による損害

原告は、所有していた前記土地を本件事故のため売却せざるを得なくなつて売却したところ、計金五五七万八〇五〇円の課税を受けたので、これを本件事故による損害として請求する旨主張するが、成立に争いのない甲第一二、第一三、第二二号証、原告本人尋問の結果によつて直正に成立したものと認められる甲第一一号証、証人木下通子の証言および原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和五〇年九月一日、その主張にかかる原告所有の土地を代金一四〇一万円で他に売却し、所得税金四二六万一〇〇〇円、住民税金一三一万七二五〇円計金五五七万八二五〇円を課せられたけれども、原告は、そのころ、妻の実家から借入れた金一〇万円と妻の内職による収入とによつて生活を維持しており、また、別紙記載のとおり、その前後を通して労災保険より継続的に休業補償金の支払いを受けていたことが認められるので、原告としては、そのころ、本件事故のため、右土地を売却するまでの必要性はなかつたものといわざるを得ず、他に原告の右主張事実を認めるに足る証拠もない。

そうすると、本件事故と右土地の売却との間には相当因果関係はないものというべく、したがつて、また、原告が本件事故により右課税金額相当の損害を被つたものとは到底認めることができない。よつて、原告の右主張は失当としてこれを採用することができない。

5  慰藉料 金二〇〇万円

前掲各証拠によつて認められる本件事故の態様・程度、原告の受傷の部位・程度、通院期間、治療の経緯等諸般の事情を考慮すると、原告の本件事故による精神的苦痛を慰藉するためには金二〇〇万円が相当であると認める。

6  弁護士費用 金四〇万円

前掲各証拠によると、原告は、被告が本件損害賠償請求に対し任意の支払いに応じなかつたので、やむなく、原告代理人に本訴の提起と追行を委任し、同代理人に対し、着手金として金一七万円を支払い、報酬として請求認容額の一割相当額を支払うことを約束したことが認められるが、被告に支払いを命ずべき弁護士費用は、本件事案の内容、請求認容額等に照らして金四〇万円が相当であると認める。

三  よつて、原告の被告に対する本訴請求中、右損害額合計金五二九万四八三六円および弁護士費用を除く内金四八九万四八三六円に対する本件事故日である昭和四九年二月三日から、内金四〇万円に対する本訴状送達日の翌日である昭和五一年一一月九日から各完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるのでこれを認容するが、その余の部分は失当としてこれを棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条本文、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本朝光)

別紙 <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例